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「紀香くん! すぐに病院へ向かうから、タクシーを頼む。予定していた打ち合わせの内容は移動中に聞くから、君も一緒に来てくれ」
焦る杉山係長からの指示を受け、資料を用意してタクシーへと駆け込む。
午後に予定していた打ち合わせは滞りなく終わり、重苦しい空気が漂う中、無言となった杉山係長の顔を覗き込んだ。
「あの、それで病院って……」
「おっと、紀香くんに説明するのを忘れていたよ。神谷部長って聞いた事があるかい?」
「神谷部長ですか?」
「もう定年退職した元部長だけど、役員に推薦されても断り続け、ずっと第一線で働いて会社に貢献した凄い人なんだ。会社が倒産しかけた時もね、みんなの中心となって経営を立て直した奇跡の人だよ」
杉山係長の楽しそうに語る表情を見ると、そんな昔の話なんて私に関係ないとは、口が裂けても言えない。
「その神谷部長が危篤らしい。住吉課長や宍戸部長も先に居るらしいから、紀香くんも挨拶がてら一緒に病室まで行こう」
「えっ?」
こうして紀香は、面識の無い過去の部長がいる病室まで連れて行かれた。
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