長谷川紀香 二十四歳

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 病室に入ると、すでに住吉課長と宍戸部長がいた。  二人は神谷夫人であるだろう年配の女性に挨拶している。その後ろでは、意識の無い神谷部長がベッドに横たわっていた。  定年退職したと聞いたが、フサフサの黒髪をエアコンの風になびかせていて、予想より若く見える。  杉山係長も夫人との会話に加わり、同じ部屋で私は孤立してしまった。  居心地がすこぶる悪い。知らない人の病室で上司達と一緒なんて、何の罰ゲームだろう?  一秒が何倍にも感じる。  気を紛らわす為に神谷部長を見つめると、違和感を覚えた。  ……  ……  あっ!? この人、カツラだ。   エアコンの風に乗り、若々しい黒髪が少しずつ不自然な状態へと動いて行く。  ……  …… 「……ぷふっ」  いけない! 笑いが口から飛び出した。  神谷夫人はハンカチで涙を拭い、それを慰める様に上司達が囲んでる。  絶対に、笑ってはいけない場面だ。でも、一度笑ってしまうと、笑ってはいけない状況が余計に笑いを誘う。見るなと思うほど、気になって見てしまう。  ……  ……    チラ見してみた。  すでに三分の一はズレて、カリスマ美容師がカットした様に見える。 「ブフッ!」  もう限界だ! 隠れていた心許ない地毛がシンクロして、原宿でも見掛けない凄さのオーラを醸し出している!   神谷部長の頭の、両サイドにしか生えて無さそうな地毛は、なんで無駄に長いの!? ツインテールみたいになったら、どうするつもりなの!?  意識を失ってる場合じゃ無いよ、神谷部長! 今こそ目覚める時よ! そして、みんなを笑顔にして、私が笑っても不自然じゃない状況を作り出してよ!  俯いて笑いを我慢する私に気付き、杉山係長が近づいて来た。
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