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声が聞こえて振り向くと、紀香くんが俯いて肩を震わせている。
そうか、紀香くんも一緒に悲しんでくれているのだな。そう思い、慰めるべく紀香くんの肩に手を置いた。
「大丈夫かい、紀香くん?」
「かっ……係長……その……」
言葉にならない声を聞いて、私は目頭を熱くした。紀香くんは心の優しい子なのだ。
「どうした?」
「神谷部長の……頭が……」
「頭?」
視線を神谷部長の頭に移すと、奇抜なヘアスタイルが飛び込んできた。
……
……
何事だ!?
神谷部長に何が起きたんだ!?
一瞬だけ混乱したが、すぐにカツラがズレていると気付く。強すぎるエアコンの風が、神谷部長の頭を弄んでいるのだ。
つまり、紀香くんは笑いを堪えていたのか?
私はすぐに耳打ちした。
「紀香くん、笑っている場合じゃ無いぞ。ここが何処か分かっているだろう?」
「たっ、助けて……下さい……つ、ツボに……嵌まってしまって……」
このままでは、上司である私の立場も危うい。仕方が無い……カツラを元に戻そう。
ゆっくりと神谷部長に近づき、さりげなくカツラを定位置に戻そうとした。しかし、少しだけ開いている窓から風が入り、エアコンの風と合わさって、神谷部長の頭は変化して行く。
……
……
おだんご頭だと!?
何が起きたんだ!? エアコンと、窓から入り込む風だけで、こんなにもカツラは形を変えるものなのか!?
もしかして、おだんご頭の上からカツラを被っていた……いや、さすがにそれはあり得ない。神谷部長の頭には、おだんごに出来るほどの髪は残って無かったはずだ。
そもそも厳格な神谷部長が、いきなりおだんご頭にする理由が見つからない。やはり、カツラが動いたのだ。エアコンの風でカツラが膨らみ、お団子頭に見えるだけ……
……
……
「ブハッ!」
不味い、笑いが感染した! おだんご頭の神谷部長だぞ! もう、動けない。私の笑いのダムは、決壊寸前だ!
課長も部長も居る。ここで笑ってしまったら、会社での未来は閉ざされてしまうだろう。
神谷部長の手を握り締めながら笑いを堪えていると、住吉課長が近づいて来た。
そして、おだんご頭のカツラも、エアコンの強風に乗って更なる進化を遂げて行く。
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