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「はい、できたわよ」
卒業式当日。
姿見に映る私はいつもの制服姿ではない。
深い赤の布地に大きな花の柄の入った着物と紫の袴姿だ。母が気合を入れて着付けをしてくれた。
つい珍しくて鏡の前でくるくると袖を振ってみた。そんな私を母は目を細めて見ている。
「夕璃はどんな男の子と帰って来るのかしら? 楽しみだわ~」
母の言葉に、私は途端に不機嫌になった。
「……お母さん。だから、私は好きな人いないって言ってるじゃん」
「分からないわよ~? お誘いがあるかもしれないわ」
語尾にハートマークがつきそうな勢いで母は言う。
「一人で帰ってくる予定なの!」
語気を強めて言ったけれど、母はくすくす笑ったままだ。
「お、夕璃。その格好、そうか、今日は卒業式だったな」
パジャマ姿で一階に下りてきた父が私の姿を見て声をかけてきた。
「お母さんもそれは綺麗だったが、夕璃も可愛いぞ」
「そうよ。ほらほら、笑顔笑顔。夕璃は可愛いんだから自信もって!」
自信はないけれど、とりあえず母に言われた通りに笑顔を作ると、鏡の中のちっさな私がへにゃっと笑った。
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