22人が本棚に入れています
本棚に追加
春之宮高校には変わった風習があって、卒業式のときは卒業生は皆袴を着る。
そして、これは風習ではないけれど、卒業式の後に男子は意中の女子を誘って帰るというのが慣例となっていた。まあ、現在では女子が好きな男子を誘って帰るということも増えているのだが、そういうわけで、卒業式が近づくと男子も女子もそわそわしていた。そんな空気が夕璃には居心地悪いことこの上なかった。
恋愛イベント大好きな母もこうして心踊らせている。もともと春之宮高校出身で、卒業式に一緒に帰った父と結婚したからかもしれない。まあ、正直羨ましいといえば羨ましい。
でも。
私にそんな慣例は関係ない。
私はまだ恋をしたことがないから。そして、私を好きな男子がいるとも思えない。
「別に好きな人がいなくても生きていけてるもん」
「……そうね。でも好きな人がいると世界が輝くのよ。夕璃にも体験して欲しいわ」
私の言葉に母はしみじみと言った。
世界が輝く、ね。私は今でも十分楽しいけどな。
最初のコメントを投稿しよう!