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真っ黒のストレートの髪はショートボブのつもりだけど、おかっぱに見えなくもない。短い眉に低い鼻。小さな口。黒い瞳だけが大きい私。地下鉄のドア窓に映る自分と睨めっこして、思わず口をへの字に曲げた。
それにしても袴姿の女子と男子の多いこと。
同じ車両に乗っている他校の生徒や通勤の人たちが物珍しそうに眺めている。
こんなだからお金持ちのお嬢様、お坊ちゃまが行く学校と思われるんだろうなあ。
学校の最寄の駅で降りると、色とりどりの袴姿の生徒で視界がいっぱいになった。
学校前の坂道を一生懸命上る。
小さな私の一歩は他の生徒より小さくて、どんどん追い抜かされてしまう。いつものことだ。でも、この坂を上るのも今日で最後なんだと思うと一歩一歩が大切なものになるから不思議だ。
淡い青空。春の風はほの甘い。
この香りを私は知っている。別れと出会いの香り。私の嫌いな香り。出会いより別れの方が印象深いから。
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