表~猿の手スマホ

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 彼女はソレをどうしたものか戸惑いながら考えた。  これほど汚れているのだから捨てられたものかもしれないが、逆に雑な持ち主に相当使い込まれている可能性もある。  落とし物として交番に届けるのが無難だろうが、その時の彼女にはあいにく時間がなかった。 「後で届ければいっか」  無造作にバッグに放り込んで駅を出た。  街角の時計を見て少し足を速める。待ち合わせの時刻が迫っていた。  今日は学生のころから交際している恋人に「大切な話がある」と呼び出されたのだ。  ここのところ、お互い仕事が忙しくてあまり会えなかったが、連絡だけはまめに取りあっていた。  喧嘩ひとつしたことがない仲で、お互いの家族にも紹介しあっている。  そろそろ……という話も少しはしていた。 「大切な話ってやっぱりプロポーズ、かな」  彼女は幸福感を隠しきれない様子で微笑み、足早に約束の場所へ向かった。  だが人生いつどこでなにが起きるかわからないもの。  この日、彼女の運命を大きく変える出来事が発生する。  汚れたスマホを手にしてからおよそ2時間後、彼女は救急病院の待合いで頭を抱えていた。
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