表~猿の手スマホ

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 彼女が待ち合わせ場所で1時間以上も気を揉んでいたその間に、彼は意識不明の重体患者として救急車で搬送されていた。  居眠り運転の車が歩道に突っ込む事故があり、運悪くその場に居合わせた彼は跳ね飛ばされて頭を強打してしまったらしい。  そんなことはつゆ知らず、彼女は待ちぼうけをくらわされて苛々していた。  いくら電話しても通じずメッセージアプリで連絡しても未読のままで、30分、40分と経つうち次第に彼の身が心配になってきた。  しばらく悩んだ結果、思い切って彼の実家に電話して、そこではじめて事故のことを知ったのである。  彼の実家は遠方であり、すでに両親が新幹線でこちらに向かっているとのことだった。  急いでタクシーをつかまえた彼女が搬送先の病院に到着した時、彼は一刻を争う容態で緊急手術に入っていた。  脳内で出血している可能性があると聞き、彼女は崩れ落ちそうになった。  だが彼の両親が着くまでは恋人の自分しかいないのだから、しっかり待機していなければと足を踏ん張って耐えた。 「どうしてこんなことに……」  彼女は赤く泣き腫らした目で手術室の扉を見る。 ブブー ブブー ブブー  いきなりバッグの中から振動が響き、慌ててスマホを取り出して見たが着信もメッセージも来ていなかった。 「そういえば……」  彼女はあの汚れたスマホのことを思い出し、もう一度バッグを探る。案の定、ソレは底の方で赤い通知ランプを点滅させていた。
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