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「レイミ、さっき僕がやったのと同じように足元に風の魔法を。力加減はしなくていい、コントロールは僕がやる」
レイミは精神を研ぎ澄ませる。もう、何も制限する必要なんてない。そう思う気持ちがあるからなのか、どん、と大気が揺れるほどの風が起こった。千切れて吹き飛んでしまいそうな両足を支えたのはカナエの魔法だった。
「すごい!」
状況も忘れてレイミが素っ頓狂な声を上げた。
「まだだ。僕はレイミのようにすんなりと、森を抜けられないだろうからね」
軽快な口調と裏腹に、カナエの手に力が込められていく。長年、手本として見せられてきた師の魔法は、ほんの遊び程度のものだったのかと仰天し、それは心強さに変わる。
炎を切り裂くように進む二人の足元を、それ以上の速さで何かが過ぎった。
「シン!?」
熱も火の粉もものともしない艶めいた肢体は、結界の裂け目へ向かって悠然と駆けてゆく。ヒトの世界の喧騒など他愛もないものなのか、ゆるりと首を後ろに向ける。ヴァイオレットの瞳が淡く光っている。
(やっぱり……、シンはただの魔獣なんかじゃなかった!)
レイミの心の声が聞こえでもしたのか、シンはふいと顔を背けた。
「跡を追おう。予想外の助っ人だ」レイミはカナエの言葉に同意した。
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