希望の街

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1  リッカは中央塔の高層階からもうもうと煙を吐き出す赤い森を見下ろしていた。東、西、南、北。火は殆ど同時に回り、巨大な森を焼き始めている。 「悲しいか、生まれ育った場所が失われるのは」男がひとり近付いて、リッカの隣に並んだ。 「いいえ」言葉とは裏腹に、リッカの瞳が揺れている。  闇夜のごとく藍色の髪と、燃え立つ炎のような赤い瞳を持つその男の名は、セトという。かつてはリッカと同じように森で魔法の訓練を積み、十六年前、選ばれてレリオスの中央塔に送り込まれた者である。 「カナエが心配か? あの程度の炎で焼き尽くされるようでは、お前の師もたかがしれている」 「カナエは……、私にとってカナエ以上の師はいない」苦しげに吐き出された言葉を聞いて、セトは嘲笑した。 「さすがに人望がある。カナエがあの時レリオス行きの候補に上がりながらも、その役目が私に巡ってきたのは、森の連中にとって重要な存在がカナエであり、捨て駒が私だったからだ。力は等しかった。……まあそれも過去の話ではあるが。久しぶりに顔が見てみたいものだな」
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