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「……ど、どこだ、ここは…」
鼻先を擽る穏やかな風が土の香りを乗せて通り過ぎていく。頭上を覆う木々の緑は爽やかな音を奏で、共に歌うのは鳥の声か。
地面に模様を作る柔らかな陽光は木々の隙間から暖かく注ぐ。照らされた見知らぬ花が喜びを示すかのようにふるりと揺れた。
――そう、ここは森の中のようだ。
澄み切った空気を肺へ取り込みながら、園崎 有磨は混乱に呟きを零し、額に冷や汗を浮かべた。
理由を言うならば、有磨は昨夜自室のベッドで眠りについた筈なのだ。閉じられた瞼に注ぐ陽光の暖かさに目を覚ましてみれば、目の前に広がる景色に素っ頓狂な叫びを上げてしまっても無理はない。
抓った頬から伝わる痛みと鮮明すぎる感覚は、夢であってほしいという希望すら無残に打ち消してしまう。時が経つ程にこれは現実なのだという事実が未だに真っ白な脳内へと捩じ込まれていくようだ。
「はは、参ったな……」
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