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引き攣ったように唇が震え、乾いた笑みが貼り付くのがわかる。停止したままの思考の歯車を無理矢理に動かして記憶を辿るのだが、どうにも上手くいかない。何時もの通り高校から帰宅して、昨夜は自室のベッドで眠りについた筈だとは思ったけれど、それも今になって何故か霞が掛かったように不確かになってしまったのだ。
長い溜息をひとつ。有磨の思考は再びすっかり動きを止めてしまい、何処からともなく焦燥感がやって来ては代わりに身体を動かす。
とにかくこの森を抜けたなら何かが見えるだろうか。焦りに身を任せ歩は早くなり、道もわからないまま唯がむしゃらに。
弾む息と共に目頭をじんわりとした熱が襲う。この異常事態に情けなくも涙腺が少し可笑しくなってしまったようだった。
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