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抜けるような青空の天辺に、太陽が輝く。その下に濃い碧色を湛えた瀬戸内の海が広がっている。
穏やかな海と、沿岸にある小さな島の双方に、大軍がひしめいていた。陸のほうが、源氏。海のほうが平家。
島の名前は、屋島という。周囲が急峻な崖で囲まれ、山頂部が屋根のように平坦であるその形から、屋島と名付けられた。
その屋根の上の小高い道を歩く、二人の姿があった。
一人は、山伏の恰好をした人物。もう一人は僧形。
今は休戦中。二人の役目は、平家の動きを探る斥候である。
「カイソンさん。あれは、何でしょう」
山伏姿が、甲高い声を上げながら、左方を指差した。
カイソンと呼ばれた僧形が黙したまま、山伏姿の指先の方へ視線を動かす。
二人の立っているのは、海岸沿いの細い道だ。その左方から、茶色い塊が迫っていた。
塊はもの凄い早さで移動しており、二人の視界の中でどんどん大きくなってくる。
やがて、その姿形が肉眼で捕えられるようになった。
栗毛の馬が、飛ぶように走っている。
大小の石を跳ね飛ばし、足元の草が千切れて舞う。
「ベンケイ、暴れ馬だ。すげえ勢いで駆けてるぞ!」
カイソンが叫んだ。
「誰か、乗っていますね」
ベンケイ、と声をかけられた山伏姿が応じた。
「何とか、お助けしないと」
ベンケイが叫び駆け出そうとした時、暴れ馬が何かに躓いた。
その拍子に、乗っていた武者が空中へ投げ出される。
武者は傍らにあった大きな岩に激しくぶつかり、もんどりうって倒れた。
武者には見向きもせず、馬はベンケイとカイソンの方へ猛然と走ってくる。
「よけて! よけてください!」
ベンケイの声に、カイソンは身を翻し、伏せた。
ベンケイも同時に腰を屈め、地に伏せる。
馬は二人が眼中にないように、二人の間を抜け駆け去って行く。
馬が遠ざかって行くのを見定め、ベンケイが言った。
「落馬した方を、お助けしないと」
「ああ」
カイソンが頷き、走りはじめる。
ベンケイとカイソンが、落馬した武者の元へたどり着いたのはほぼ同時だった。
「大丈夫ですか」
ベンケイが倒れている武者の上半身を抱き上げた。
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