4人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
猿母
伊豆にある、野生の猿の管理と飼育をしている施設に問題が起きていた。
施設職員や観光客に危害が及ぶ程、狂暴で獰猛な雌猿が一匹いると言う。
他の猿や人が近付くと、なりふり構わず威嚇、攻撃をする。そして、悪臭。
その雌猿の名前はアイコ。
彼女が片時も離さず抱えている、薄汚い肉片、それが強烈な異臭を放っていた。
「それは、小猿の死体です」
この猿園の園長が言った。
アイコは子供を生んだものの、乳が全く出なかった、職員は衰弱する小猿を生かす為、保護しようとしたが、アイコは激しく抵抗し、捕らえる事は出来なかった。間もなく小猿は死んでしまったが、それを理解出来ないのか、アイコは今でも小猿の死体を手放す事はせず、持ち歩いている。
見かねた職員が苦労して、小猿をダミー人形と入れ替えた事があったが、人形には目もくれず、事も有ろうか、今年生まれた新生児を他の母猿から奪った。だから今持っている死体は二代目で、きっと何度小猿の死体を取り上げても、同じ事を繰り返すと推測される。そして乳の出ないアイコはそれを殺してしまうだろう。
動物園の動物とは違う、野生動物だからと言う事なのだろうか、人間の介入で問題が大きくなっている。
人を傷付けてしまった猿。処分は免れ無い事なのだ。
県庁の方に鳥獣捕獲等の申請があった。つまりは、危険動物の駆除をしたいって事なのだが、簡単にはいどうぞとはいかない。鳥獣保護法により勝手に猿を処分する事は禁止されている。
人に危害を加えた危険な猿でも、視察をして、初めて捕獲の許可が下りる。一応捕獲と言う名目だが、その場で射殺しても構わない。
私はその視察の為に県庁から此処にやってきた。
園内の半野生の猿を視察がてら見て廻る。餌付けされた猿は皆大人しい。
ここは観光客も来る。
最初のコメントを投稿しよう!