パンデミック

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   20XX年、某月――  まんまフィクションのような事態が、ここ日本の首都で起こった。  未知のウイルスの感染とその爆発。  致死率はなんと100%。  人間にだけ作用し、40℃を超す高熱を数日間に亘って及ばせるという症状。    すぐさま東京23区全てが隔離され、世は正に世紀末って状態。  だが、何よりこのウイルスが恐ろしく、空前絶後たる由縁は、  ――その感染経路こそにあった。  「LDウイルス」と名称されたコイツ等は、    空気感染でも、接触感染でもなく、  なんと人の”感情”によって伝播(でんぱ)するというのだ。  そのメカニズムは無論、まだ解明されていない。  しかし、人間同士による双方向の感情のやり取り――  即ち、ざっくばらんに言うなら「愛」によって感染を拡げるらしい。    何という皮肉。  何という質の悪い冗談。  いいや、全てが事実だ。  高熱にうなされ、自分の最期を悟った感染者が、今際(いまわ)の際(きわ)に愛する家族にその別れの言葉を告げたとする。  すると、あら不思議。  感応して涙を湛(たた)える、健康なその家族までがめでたく感染者。  神様はとんだブラックユーモアがお好きだ事。  東京は隔離されたが、なにも直接に人と人が接触する必要もない。  電話やライン、果てはネット掲示板の書き込みでだって、双方が感応しちゃったらそこでお終い。  物理法則すらぶっ飛んだ感染力の「LDウイルス」くんであった。
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