パンデミック

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 さてさて、実は俺もそんなパンデミックの爆心地たる東京在住者。  窓の外は、悲鳴と怒号が渦巻く何かのゲームみたいなトンデモ世界。    ウイルスの発症が、人間が抱くあらゆる類の情愛と判明してからは、人々の心の荒廃を止める枷なんかありゃしない。  その内モヒカン頭が「ヒャッハー!」しだしたり、「愛など要らぬ!」と豪語する聖帝さまがなんちゃら十字陵を築くのも時間の問題だと思える今日(こんにち)。  しかして、俺という人間は全くその事を恐れていない。  いや、楽しんでいると言っていい。  いやいや、むしろ喜びで小躍りしてる毎日だね。  え?   何故かって?  そんなの決まってる。  つまりこの世界は、他でもないこの俺が天下を獲れる世界。  そう――  この俺こそが「最強」の称号を持つに相応しくなったからだ。  何故なら、この東京でただこの俺だけが「LDウイルス」の脅威に晒されていない。  俺こそが、この世界を生き残れる唯一無二の適応者なのだ。  生まれついての超絶ブ男。  母子家庭で育ったせいでガキの頃から貧乏三昧。  学校の勉強についていくのがやっと。  ゲームもオモチャも買えず、クラスメイトと話題すら合わない。  器量も悪けりゃ、要領も悪い。  これで頭だって悪いとくりゃ、――そりゃもう性格だって悪くなる。  幼少よりずーっとそうやって、  馬鹿にされ、  蔑まれ、    嘗(な)められ、  見下され、  踏みにじられてきた。  そんな俺ならば、誰に愛される事も、誰を愛する事もない。  欠片すらない。  そんな心配をする必要すらない。  故に、俺は生き残れるのだ。    運動神経も機転も利かないが俺だが、  要は最後まで生き残った方が勝ちなんだろう?  ――ならやっぱり、俺が最強じゃないか。  外じゃあまだ、「愛なんか捨てた」みたいな連中が必死で悪ぶってはいるが、未だウイルスによる猛威は収まらない。  つまりそれって、結局そいつ等も情に絆(ほだ)されてるって証なんだよなあ。  まったくダメダメ。  二流どころか三流じゃん?  でも俺は違う。  超一流の人間嫌いにして、人間”嫌われ”。    そう、これからの世界を生き残れるのは、やっぱり俺だけなんだよ。    
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