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それから優里は3日間、家の中でさえ誰とも会わないようにひっそりと暮らした。
3日経ってようやく部屋から出た時には、いつも通り美恵子が化粧っ気もないまま朝ごはんの支度をしていた。そして、優里に気付いた美恵子はバツ悪そうに苦笑いした。
「ごめんね、優里。お母さんね、お父さんまで"母さん"って呼ぶこの家では、"お母さん"という存在でしかなくなったみたいで虚しかった。そんな時、高校の頃付き合っていた彼と再会して、昔の気持ちを思い出したの。だけど、もう会わないから。やっぱりお父さんと優里の方が大切だから」
美恵子が涙ぐみながらそう伝えると、複雑な心境ながらも優里は少しだけ母親の気持ちも分かるような気がしていた。
「お母さんってだけじゃ嫌なら、これからはお父さんと昔を思い出してよね」
そう言って優里が膨れた顔を見せると、美恵子はクスクスと笑った。
「お父さんなんて無理に決まっているじゃない。若い頃はあった髪がなくなっちゃったのよ。まるで別人なんだから!」
そして、異常なほど早口で喋りだした。
「お父さんは公認会計士の仕事で安定している。この生活レベルを手放す気はないわ。優里は私に似て本当に美人に育って嬉しいわ。可愛く無い子だったら愛せなかったかもしれない。だけど彼と別れたのは本当だからね」
「お・・・お母さん、まだトロが治っていないの・・・?」
「そんなことないわ。3日経ったんだもの、トロじゃないはずよ。ああ、もう彼と会えないから今日もつまらない。他に熱中できることを探さなきゃ」
そう言った美恵子の言葉はやっぱり早口でおかしかった。
どうして?トロは3日で治るはずなのに・・・。
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