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「伊織さんは、先生が好き?」
「・・・・」
伊織さんは目を閉じると、ぎゅっと抱き着いて来た。その仕草が子供みたいで、母性本能をくすぐられた。
「・・・うん」
私にしか聞こえない声で、返事を返して来る。私はよしよしと、頭を撫でる。
「仲直りしないとね?仲直りの仕方は分かる?」
小さな子に諭すように訊ねた。
「・・・うん」
また頭を撫でて上げる。体を離し、顔を覗き込む。
「出来るよね」
伊織さんは一瞬、不安気に瞳を揺らす。ぎゅっと私の服を掴むと、先生と向き合う。
先生は、ビクッと体を揺らした。
「・・・兄貴、ごめん」
項垂れ、呟く。
「俺・・・本当は分かってた。何もかも分かってたのに、分からない振りをして、自分の気持ちを押し付けてたんだ。ずっと・・・兄貴に甘えてたんだと思う。本当は謝りたかったんだ。でも、出来なくて、キッカケが掴めなくて・・・あんな風にしか接することが出来なかった。・・・ごめん。本当にごめん」
「いいから。・・・もう、謝らなくていい。僕も、悪かったと思ってる。ごめん」
先生がうるうると瞳を揺らしながらそう言った。
良かったと、思った。一歩踏み出せたんだ。まだ、蟠りは残っているし、消えたりもしないだろうけど。
でも、お互い謝る事が出来た。やっと、歯車が噛み合い出した。後は、焦る必要はない。少しずつでいいから歩み寄って行ければ、きっと大丈夫。
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