第2話 「地下アイドルの憂鬱」

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 買い物を終えた誉は店の外で龍門に話し掛けた。 「なんなんですか、彼女。万引き依存症ですか?」 「ううん、違うよ。でも、あの手癖を直すには根本から治療しないとなぁ」 「手癖を直す……」 「うちに来てくれるかな。どうだろう。来てくれない事には始まらないけど、なかなか手強そうだな」  龍門は遠くを見るような仕草で呟いた。  依存症の治療は精神科領域の疾患だ。万引き依存症もその一つだが龍門は違うと言う。どういう事だろう。薬物依存やアルコール依存のような他の依存症なのだろうか。考えても答えは出なかった。  意味の分からない状況は、数日後、一つの答えを出した。 「龍門先生、例の彼女、来てますよ」  待合室から診察室にいる龍門に声を掛けると、龍門は嬉しそうな顔で応えた。 「ホントに? ああ、よかった。いいよ、問診票とか書かせなくていいから診察室の中に入れて」 「書かせなくていいって、それじゃあ病状が分からないですよね?」 「いいの、いいの。どうせ書いても全部嘘だから」 「はあ……」 「名前だけでいいよ」 「分かりました」  誉は名前や住所といった個人情報だけを書かせて彼女を診察室の中へ案内した。問診票を見ると置田美咲(おきたみさき)とあった。  美しく咲く……か。綺麗な名前だ。  彼女はミニスカートにオーガンジー素材のチュニックを合わせ、腰にデニムのジャケットを巻いていた。スカートから覗く脚は人形のようにすらりと長い。彼女はその名前のとおり、可憐で美しい容姿をしていた。
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