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二週間後、嵐がやって来た。
電話があり、予定の時間より三時間遅れて親子が来た。病院に着いた所でまた電話があった。
「すみません。エレベーターが調整中で――」
電話の向こうで子どもの泣き叫ぶ声が聞こえる。龍門と誉はすぐに一階にあるエレベーターホールへ向かった。男の子は扉の前で体を前後に揺すりながら大声で泣いている。両手で頭を抱え、耳をふさぐ仕草をしていた。
「すみません。エレベーターに乗れるからと言って連れて来たんです。でも、この通り」
母親は調整中の看板を指差した。
「分かりました。職員専用のエレベーターに乗ってもらいましょう」
母親が促したが男の子はパニックを起こして聞き入れる様子がない。龍門はタブレットを取り出すとエレベーターの画像を検索して見せた。そこへペインティング機能を使って指で丸印を描いた。
男の子はそれを見ると泣き止んだ。龍門の手を取って引っ張り、その手でエレベーターのボタンを押そうとする。龍門が専用の鍵を使ってエレベーターを呼ぶと、男の子は無言のまますっと中に入った。
「こちらは一階で、す。さくらやで、は春の桜フェ、アー、昨年大好評につき完売致し、ました、桜のガレッ、トを販売しておりま、す。ぜひ地下一階、食品売り場までお、立ち寄り下さ、い」
男の子はスマホの電波の悪い所で話しているような口調で話した。話し方に抑揚がなく平坦で文節の区切りが所々、おかしかった。
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