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「凄いお喋りが上手なんですね。四歳とは思えない」
誉がそう言うと母親は寂しそうな顔をした。
「聞いた事をそのまま声に出しているだけです。内容を理解しているわけではないですし、単語が言えるからといってコミュニケーションが成立するわけではないんです」
男の子は一階と地下一階のボタンを何度も押した。降りようとしないので三人は何度も行ったり来たりする。
「今日はどうして遅れたんですか?」
龍門が尋ねた。
「息子は電車が好きなんですけどこだわりがあって、同じ快速電車でも車両によって乗る時と乗らない時があるんです。理由はよく分からないんですけど、すぐに乗ってくれる日もあれば三時間待つ日もあって……隣の駅まで五分で行けるのに四時間待った時もあります。無理やり乗せるとパニックを起こすので、本当に出掛ける事だけでも大変なんです」
「なるほど」
龍門は何かを思いついたように眉を上げた。
「写真を撮っておいてもらえますか?」
「え?」
「乗った時の電車と乗らなかった時の電車の写真です」
「……はい」
母親は頷いた。
「今日はここまでにしましょう。お母さんの薬は出しておきます」
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