第1話 「落書きの秘密」

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     4  龍門は母親の診察と息子の面談を何度か続けた。男の子は病院のエレベーターが気に入ったらしく、何度も乗り降りを繰り返した。一階から地下一階へ、そしてまた地下一階から一階へ。龍門がタブレットでエレベーターの画像の上に5と書くと、五回繰り返した所できちんとやめた。診察室にも入るようになり、龍門が椅子の上に赤いビニールテープで四角を描くようにするとそこにちゃんと座った。 「面白いですね……」  誉は素直に言葉が出た。不謹慎な発言かと思ったが母親は表情を変えなかった。 「何か俺たちとは違うルールで動いているみたいだ」 「その通りだ。俺たちのルールと互換性がないから分からないだけで、使う言語は違っても同じ概念を持っている。パソコンのOSと同じだ。同じソフトをインストールしようと思ってもOSが違えばやり方を変えなければいけない。自分たちと同じやり方でインストールしようとするからバグるんだ」  男の子は龍門から渡された絵本を読み始めた。漢字も片仮名も全て読めている。 「凄いな……」 「教えたわけじゃないんですけど、平仮名はもちろんアルファベットも読めます。それを使って会話できるわけじゃないですけど……」 「ハイパーレクシアなのかな」 「それは主治医の先生から言われた事があります」  母親は頷いた。
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