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「皆さ、んは、数字の美しさを知ってい、ますか。1は0除い、た最小の正の整数で最、小の自然数でもあ、ります。ちょう、ど一個の正の整数で割り切れ、る唯一の正整数で、す。物質の存在を表、す原初的な記号であり、物事を測る基準、つまり世界の初めであ、ると言えます。1は唯一無二のフェ、アで美しい始ま、りの数字です」
男の子はその台詞を何度も繰り返した。
「バンビちゃん、ポラロイドカメラって持ってないよね?」
誉は突然、龍門から呼ばれた。カメラの有無を尋ねられる。
「ポラロイドどころかデジタルカメラも持ってないです。他の科に行けばデジカメは貸してもらえると思うんですが」
「あ、そうだ。小児科の病棟に行ってきて。あそこなら玩具のポラロイドがあるはずだから」
「……はぁ。分かりました」
誉は小児科の病棟までカメラを借りにいった。事情を話すと病棟の看護師がカメラを貸してくれた。小児科ではイベント事に写真を撮り、その様子を病棟にある掲示板に貼ったりするようだ。誉は専用フィルムを受け取って外来まで戻った。
カメラを龍門に渡す。龍門はフィルムをセットするとカメラを机の上に固定した。ファインダーを覗きながら位置を調節している。
「うん、これでいい。お母さん、呼んできて」
「分かりました」
待合室で待機していた母親を診察室の中へ促す。母親は怪訝そうな顔で入ってきた。
「四人で写真を撮りましょう」
龍門はそう言うと誉と親子を窓側に立たせた。カメラのボタンをセットし、慌てて誉の隣まで走ってくる。フラッシュが光った。ジーッと音がして撮影が終わったフィルムがカメラから出てきた。
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