第2話 「地下アイドルの憂鬱」

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「先生はゲイなんですか?」 「げいって?」 「だから美少年が好きだとかなんとか……」 「私は美しいものが好きなだけだ。イタリア車、古い懐中時計、ルネサンス時代の彫刻、そして美少年の尻」 「最後のやつが特に最悪ですね。で、やっぱり、ゲイなんですよね?」 「美少年の尻が特に好きなだけだ」 「……はぁ」  どうして隠すのだろう。ゲイならゲイで別に構わない。誉には全く関係のない事だ。 「俺の尻にこだわる理由もよく分かりません。形がいいのはともかく、美少年ではないですよ」 「バンビちゃんは少年性というものを理解していないな。美少年というカテゴリーは年齢による区分けではない。六十歳の美少年もこの世には存在する。バンビちゃんの尻の崇高さと純粋さを俺は心の底から愛している」  はぁ。闇が深すぎて理解できない。 「その決して媚びない尻がさらに中毒性を高めている」  媚びない尻ってどういう事だよ……。全く意味が分からないので放っておく事にした。 「それにしても、かの有名なルネサンス期の彫刻家であるドナテッロ先生の、ダビデ像の尻えくぼを生で見られるとは夢にも思わなかったな。尻えくぼは恋の落とし穴。眼福! ……確かドナテッロ先生もメンズがお好きのようだったなぁ。あはは」  も、という副助詞も当然、聞かなかった事にする。頭が痛い。 「イタリア語で『いいお尻』というのは『運がいい』という意味なんだ。――avere culo――どう? 響きもいいよね? 古代ローマではいいお尻の少年は稼ぎがよかった(、、、、、、、)から、そう言われているんだ」 「……なんだ、やっぱりそういう意味じゃないですか」  最低ですねと言うと龍門が笑った。
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