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ロッカールームを出て、ICUに向かう。すでに上司や同僚との顔合わせは終わっており、今日からここで現場の看護師として働く事になっている。誉はプリセプターとしてついてくれる先輩看護師に声を掛けた。
「おはようございます」
「あ……鹿野さん。ちょっとこっちへ」
三十代の女性看護師である佐々木さんは誉を見るなり表情を曇らせた。廊下の端に連れて行かれる。
「今日、いきなり上から連絡があって……言いにくいんだけど、鹿野さんの配属先が変更になったみたいなの」
「……変更ですか?」
「そうなの。私も事情はよく分からないんだけど……とにかく上の指示だから」
佐々木さんはICUの入口まで戻ると小さなカードを手に戻って来た。
「これ、鹿野さんのIDカードだから。じゃあ、よろしくね」
佐々木さんはそう言うと速足で誉の傍を立ち去った。変更の理由を追及されたくないような足取りだった。白い背中があっという間に小さくなる。誉は恐る恐るカードに表示された文字を見た。
――広陵台総合医療センター 精神・神経科看護師 鹿野誉――
思わずカードを二度見した。どういう事だろう。自分が精神科に勤務するなんて信じられない。第一希望は救命救急部だったが、第二、第三はそれぞれICUと手術部で出していた。精神科とは一言も書いていない。現実を受け入れられず反射的にカードを裏返したが、そこは真っ白だった。
「嘘だ……。俺がプシ科勤務なんて……冗談だろ」
こんな事があっていいのだろうか。
カードと同じように頭が真っ白になる。誉はしばらくその場から動けなかった。
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