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重い脚を引きずって廊下を歩いた。傍を通りかかった看護師に尋ねると精神科は地下一階にあると言う。階段を降り、その場所に向かった。
気のせいだろうか。地下一階のフロアは薄暗かった。精神科の他には放射線科の読影室と霊安室しかなかった。空気も淀んでいる。エレベーターフロアから東側に向かって歩いた廊下の突き当たりが目的の場所だった。入り口に「精神・神経科」と案内表示がされている。勇気を振り絞ってクリーム色の引き戸を開けた。
「お、おはようございます」
挨拶をして中に入る。外来の作りは他の科と違うようだった。入ってすぐの場所に靴箱がある。ここで靴を脱ぎ、スリッパに履き替えるシステムのようだ。右側にトイレのドアがあり、続いて受付があった。今はまだ誰も座っていない。待合室は患者同士が目を合わさなくて済むようにパーテーションで区切られていた。誉はとりあえずナースサンダル代わりの白いシューズを脱いだ。色気のないスリッパに履き替える。
「おはようございます」
もう一度、挨拶する。中に一歩踏み出した時、突然、目の前に何かが飛び出してきた。呆気に取られていると、そのまま背後を取られ、強い力で羽交い絞めにされた。苦しい。
「ちょっ……なっ、な、なんですかっ!」
「ふふ」
パーテーションの隙間から躍り出た、白く巨大な物体が誉の後ろで呻いている。息が荒い。驚きと恐怖で、誉は背筋が冷たくなるのを感じた。
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