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「バンビちゃーん。マジ天使」
「へ?」
自分の胸元に視線を落とすと、心臓の辺りで大きな手ががっちりとクロスしていた。白い袖の隙間から高そうな腕時計が見える。文字まで金ピカの趣味の悪い時計だった。
「予想通り! ビンゴ! ジーザス! ファック、イェイ! 顔写真だけで見抜いた俺、マジ天才。これほど完成度の高い美尻は初めて見た。飛行機でいう所のファースト、カードでいう所のブラック、和牛でいう所のA5、マーベラスでありファビュラスでもある。最高だ!」
誉の後ろで白い物体が喋った。低く抑揚の利いた声だ。どうやら……というか、間違いなく男性のようだ。
「匂いもいい。声も最高。これは上物だ。へへ」
「なっ……」
その言動に茫然としつつ体をよじると、男は締めつけていた両手を外した。苦しさが解け、ほっと胸を撫で下ろす。気を抜いていると今度は尻をつかまれた。むんずと音がしそうなほど遠慮のないつかみ方だった。
「ちょっ……な、何するんですか!」
誉は慌てて振り返った。自分の肩口に、飛び出た男の高い鼻梁が見える。秀でた額がコックピットのようだ。外国人なのだろうか。癖毛を後ろへ撫でつけたスタイルで顔の彫りが異様に深い。
あっさりした顔の誉とは違って、パーツそれぞれの主張が激しく、顔のコントラストがハッキリしすぎている。朝、急いでいる日は洗顔が大変だろう。ぼんやりとそう思い、誉はハッと我に返った。
なんなんだ、これは……。
「お、俺の……し、尻を触らないで下さい」
男の手は誉の尻の感触を確かめるためか、ロボット掃除機のようにゆっくりと這い回っている。尻たぶの境界線まで来るとバックする丁寧さも持ち合わせていた。時々、ぷにぷにと指先で摘まれる。
「だから……そ、その手を――」
「手を?」
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