【壱】

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人とは非常に面倒な生き物だよ。 年を重ねる度に、幼い頃に言われたこの言葉を要(かなめ)は思い出す。 思考や能力はもちろん、異常なまでに周りを気にして生きている様は滑稽にすら思える時がある。 少しでも他と違えば目立ってしまうし、変人扱いを受ける どうしてそんな所にわざわざ身を置いて暮らさなければならないのか、幼い頃の要にはよく分からなかった。 妖は特異な存在だからこそ、だよ そう言われても納得できなかった。 でも、さすがに15年も人として生きていけばなんとなく分かってきた事もある。 要は人間じゃない 別に、そう思い込んでいるとか、自分で考えた理想の設定とかでは断じてない。 赤ん坊の時、要の両親は死んだ。 物心つく頃には要の周りは妖と呼ばれる所謂(いわゆる)妖怪だらけだった。 育ての親も、もちろん妖 一時は特に変わった能力も持たない、人間と変わらない姿の自分は本当は人間ではないのかと疑問に思った事がある、そんな疑問を育ての親でもある妖に要が聞いてみた所 「要が人間ならとっくに私の腹の中で消化されているよ」 と気味の悪い事を言われたのでそれはどうも違うらしい。 妖としての能力がいつ目覚めるかはわからない 特に要みたいになんの妖力も道具も使わずに人間の姿をしている妖は、いつ妖としての本能が目覚めるかわからない もし人間として生活していて、いきなり妖としての本能が目覚めれば大変な騒ぎになる。 だからこうしてどちらの生活にも慣れておかなければならない 妖を敵視している人間に馴染んでいた方が都合がいい 人間と共存するために 木嶋 要 (きじま かなめ)という名前もつけてもらった 人としての要の名前だ 名前は育ての親が悩みに悩んでつけたと言うが、名字は適当だ 人としての戸籍を作る時に役場で受け付けた人の名字をそのままつけたという ま、別に何でもいいけど… そんな事をぼんやりと思いながら、あまりに退屈な日本史の授業にうんざりして、要はこの授業中何度目かの欠伸を噛み締めた、重たくなる瞼を眼鏡越しに軽く押さえると、ようやく授業を終える鐘が学校中に響き渡った。
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