【壱】

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それは、要が眼鏡姿でも分かる位、整った綺麗な顔立ちをしている為だが、本人は全くその自覚は無い その為こういった矛盾が生じるのだ 「やっぱり無理だと思います、家は厳しいので」 要はへらっと愛想笑いをする いや、あの人の場合は厳しいというより過保護なんだけどな…とふと妖の義父を思い出して要の愛想笑いが若干ひきつる 「えー……あ!なら要くんのお家の仕事手伝ってあげるよ!」 「は?」 「ずるい!私も手伝いたい!」 引き下がるどころか私も、と周りにいた女子が次々に集まってくる 予想外の状況に要の眼鏡がずり落ちる 訳が分からない展開に要が戸惑っていると、要の机を誰かがバンッ!と叩き、辺りが急に静かになる 「…ずいぶん楽しそうじゃない、要」 机を割れんばかりに叩いたのは美桜だった 短く切り揃えた髪から伺える大きな猫目はつり上がり、怒りがピークなのを物語っている 「ご…ごめん美桜…」 「ごめんじゃないわよ!私を待たせておいてこんなのとイチャついてるってどーゆう事よ!」 「ちょっとー!こんなのって何?あなた中等部でしょ?なんで入ってきてんのよ」 この学校は中高一貫の進学校だが、美桜のいる中等部と要のいる高等部は教師の許可がなければ出入りが基本出来ない仕組みになっている それなのに美桜が入って来れた理由は… 「私は要の妹よ!!」 そう、美桜は学校では要と兄妹という事になっている その方が親しくしても変に目立たないという理由らしいけど、高等部と中等部にほとんど交流の場がないこの学校でその設定は必要なのかと要は思う けれど、今この状況では効果があった様で、さっきまで騒がしかった女子が美桜の登場で静かになった 「ふん、とっとと帰るわよ、お 兄 ち ゃ ん」 「あ…うん」 …最後に強調した”お兄ちゃん”は絶対イヤミだろう、要が美桜に普段お兄ちゃんなどと呼ばれたことは一度もない、むしろ要の事を弟かなにかと思ってるんじゃないかと疑う事すらある。 とりあえずやり方はなんにしろせっかく逃げ道を作ってくれたのだ、要はいそいそと鞄を肩にかける 「では、失礼します」 唖然とするクラスメートにしれっと頭を下げて、美桜の後を追う形で教室を出た要は美桜の後ろ姿を見つめながら 月曜日は早く教室を出よう…と固く決心した。
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