【壱】

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「人間の女の何がいいのよ?男って妖も人間もスケベばっかなの?!」 帰り道、いまだ文句を言い続ける美桜に要はため息をつくしかなかった 「…まるで俺がデレっとしてたみたいに言うなよ」 「……してたじゃない!!なんでビシッと断らないのよ!要はいつもそうじゃない」 少し先をまた歩き出した美桜は小さな竹林に入ると大きな猫耳をポンポンと生やした。 学校から少し離れたこの竹林は要たちが入ると途端に道が少し変わり、本来の要達の家に辿り着くようになっている。 万が一誤って人が侵入すると竹林のすぐ手前に普通の民家兼骨董屋があって、それ以上は道がなく引き返すしかなくなる。 ちなみにその普通の民家が人間としての要たちの住所になっている 万が一誰か来ても本来の家と繋がっているので応対もできるという妙に便利なシステムだ しかし、竹林でもあまり気を抜かないようと言われているのにも関わらず美桜が無自覚に妖になりかけてしまったということはそれほどイライラしてるんだろう 苛立つと美桜はよく猫耳を生やす まだ上手くコントロール出来ないそうだ けれど、要も助けられたとはいえ今回勝手に切れて悪目立ちしたのは美桜の方だ 「美桜みたいに片っ端から爆発してたら目立ってしかたないだろ」 「私を花火みたいに言わないで!!」 「なんで美化したんだ今」 どちらかと言えば花火じゃなくて爆竹かかんしゃく玉じゃないか?と要は首を傾げる 「と…とにかく!要はただでさえ女に好かれやすいんだから気を付けなさいよ!!」 「なんの冗談だよ、こんなに地味にしてるのにモテるとかないだろ」 何度もお節介な奴に心配はされているが、それをモテると一括りにするのは間違っている とんだ妄想だなと笑い飛ばす要に美桜はピタリと足を止めて振り向き鋭い爪を要の顔に当てた 「その鈍感な頭と澄ましたお顔をバリ掻いてあげましょうか?私が妄想で喋ってないって分かるわよ?」 要の頬に当たるひんやりとした長い爪に要は一歩引き下がって真面目な顔で「遠慮する」と答えた 美桜は猫の妖怪だけあって、その爪の威力は傷が残る程度じゃすまされないのは知っている 年齢を重ねるにつれて美桜は妖としての力を増しつつある 未熟だったり、ハーフと呼ばれる妖には自然な力の現れ方らしいが、美桜より年上の要にはいまだそんな兆候は見られない 今の要では美桜にすら敵わないだろう
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