【壱】

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兆候が現れる年齢や時間はそれぞれと聞いているが、要はたまに不安になり、嫌な考えが頭の中を駆け巡る事がある (…実は俺、本当は人間で…) 「要が実は人間で、おいしいそうな年になったら私が食すとでも思ってる?」 「うわぁぁっ!!」 いきなり背後から耳元で囁かれ、驚いて要は大きく仰け反った。その拍子に見上げた声の主は要と美桜の育ての親である妖の養父こと徹祈(てつき)だった。 クスクス笑いながら「おかえり」と涼しげな金色の瞳が要を見下ろす 慌てて向き直って、要は睨みながら無駄に長身の徹祈を見上げる 「普通に出てこいよ!!」 「家の前でいきなり思案にふける要がいけないんだよ、それに普通に登場したらインパクトに欠けるだろ?」 「なんの拘りだよ…てか、なんで俺が考えてることわかるんだよ」 本当に人間を食べるとまでは思っていないけれど、徹祈はいつまでこのネタを引きずるんだろうか (もしかして本当に人間を食べるわけないよな?) 要が疑惑の目を向けると徹祈はフフと笑いながら腰よりも長い髪をスッと肩へ流して涼しい顔をする。 徹祈の髪は緑に金のメッシュが入った髪だ。この長ったらしい髪と金色の瞳を除けば妖にはとても見えないと思う でも徹祈の場合は本来の妖の姿以外は思い通りに姿を変えられる。 人とは少し違うその顔立ちや雰囲気は徹祈がいつか見たアニメかなんかのキャラに似せたらしく、本人いわく「個性の無い人になりきるよりミステリアスでしょ?」…だそうだが激しくどうでもいい理由である 普段の軽い言動や、不可解な行動からは想像し難いが徹祈は”麒麟”というかなり位の高い妖だ 中国では神獣とも言われている (神獣ってもっとこう…神々しいというか高貴なイメージなんだけど…いいのか?こんなノリで生きてるような奴が神獣とか名乗って) 「…私先に行って見世の準備するわ」 要たちのやりとりをしばらく黙って見ていた美桜はため息をつきながらそう言うとさっさと家に入ってしまう (まだあいつ怒ってんのか?) はぁ、とつい要もため息をつく それを見逃さなかった徹祈が美桜を見送った目線を要に戻して呆れた顔をした
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