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 相変わらず、勝手な思い込みで話を進める彼をポカンとした表情で見つめていると、無言は肯定だと捉えられたのか、定食屋にはそぐわない、爆弾発言を落とした。 「ヒルトンの男は【犬】なんでしょ? つまり、何でも言う事を聞いてくれる都合のいい男ってことだよね。だったら、俺とも割り切った関係で楽しめばいいじゃん」 「……は?」 「あっちゃぁ……」  あまりにも馬鹿にしくさった言いぐさに、不機嫌な声を漏すと、前に座る郁恵が片手で目を覆った。 「何を勘違いしたのか知らないけど、私は梶浦さんとは違うよ」  何の感情も含めずに淡々と告げると、何度か目のメールの着信を知らせたスマホを手に取った。  あまりにも冷めきった声を出したせいか、隣にいる梶浦は口を閉ざしていた。  画面をタップし、スライドさせると、表示された文字を見て、つい口元が緩む。 「ご褒美をあげなくちゃ」  思わずポロリと漏れた呟きに反応したであろう梶浦の視線を、頬に強く感じる。  これもまたある種の快感を呼び起こす。  少しだけ悪戯心が芽生える。  きっと、これを知れば、この男も自分に関わることはないだろう。  そんな期待を抱いて、メールの相手にも文字を打つ。  彼からの返事は見なくても分かる。  スマホを静かに置き、梶浦へと顔を向けた。 「実際に彼と私の関係を見れば、あなたと私が違うってこと。分かってもらえると思うわ」  郁恵の呆れたような顔が目に入る。 「明後日。知りたきゃこれば?」  そう言って、彼の分の伝票も手に取り店を後にした。
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