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 パソコンの画面に集中し、一心不乱にキーボードを叩いていたものの、周囲のあまりの静けさにふと我に返る。  時計に目をやれば、とっくのむかしに定時は過ぎ、オフィス内には自分を含めて数人しか残っていなかった。 「瑞浪さん。そろそろ終われそう?」  困ったような声が真上からし、慌てて振り返ると、小太りで人のよさそうな顔をした井本課長が苦笑いをしていた。 「あ、すみません。つい夢中になってしまって……」  どうやら何度か声を掛けたものの、明後日の会議で発表する企画書に集中していた私は、ずっと無視をしていたらしい。  他の部署で残っていた人達も、キリのいいところで切り上げて帰り支度をしていた。  オフィスの施錠は、管理職の人間が責任をもってすることになっている。  自分がしている仕事は今日中に仕上げなくてはいけないものではない。  これ以上自分一人の為に、課長まで会社に居残りさせる訳にもいかず、データを保存してパソコンの電源を切った。  自分のデスク周辺を片付けると、昼間飲んだ缶コーヒーの空き缶を捨て忘れていたことに気が付いた。 (帰りに捨てればいいか)  鞄と空き缶を手に持ち、「お疲れ様です」と言って、オフィスを出る。
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