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「あれ?坂下って今日休み?」 インフルエンザでしばらく休んで、漸く今日から復帰。いつもの席に居ない彼女を目が探す。 「あ、さっき電話来てたみたいですよ。樹下が受けてました」 「主任、移したんじゃないですか?」 にやにやと部下の一人、芹澤が笑う。 「何で俺が。そんなに接触無いだろ。発症前は出張だったし」 「あれ?お見舞いに行きませんでした?変だな。俺、主任の家の行き方、教えたんだけど……」 不思議がる彼の話はまだ続く。 「最初俺も一緒に行く予定だったんですけど、急に会議入っちゃって。玄関で渡したらすぐ帰るからって言うから。みかんと桃の缶詰貰いませんでした?」 ……確かにあった。 リビングのローテーブルの上に、他にも幾つか入っていた。 「ほら、前に主任熱出たらみかんと桃両方が良いって言ってたじゃないですか。だから、それ教えといたんだけど。変だなぁ」 ……。 いや、違う。 あれは……夢だ、ろ? だんだんと自信がなくなる。 言われてみれば、やけにリアルな夢だった。 彼女の冷えた指が気持ち良くて。 唇なんか柔らかくて、もっと……気持ち良かった。 ……キスした、のか? 俺は彼女にキスしてしまったのか? 何をやらかしたんだ、俺は。 もし現実で起きたことなら、セクハラだ……よな、あれじゃあ。 熱であやふやなのを良いことに部下に何してんだよ。 さすがにあれは無いだろ。倒れそうだ。 いや、落ち着け。本当に夢だったかもしれない。 そう思いたい。 夢でないとしたなら、彼女にどれ程軽蔑の目を向けられるだろうか。 あのキスが真実であって欲しいという気持ちと、あれが夢であって欲しいという願いが複雑に混じり合う。
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