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西方暦八〇八年五月――
ひと月前の出来事である。
ウライバ藩王国より西に位置するクメーラ王国にて、ある辺境伯が陰謀を巡らし、武装蜂起を計画した。
王直参の近衛を丸め込み、一部の諸侯を味方に付けた辺境伯の謀反そのものは直前で阻止されたものの、呼応して挙兵した反乱側の諸侯鎮圧には、現在の戦力では時間が掛かり、このままだと、本格的な内戦に発展してしまう。
この非常事態に、クメーラ国王は、国を取り巻く二十を越える藩属国に援軍を要請することを決した。
ウライバ藩王国を含む藩属国は、その肩書き通り形的にはクメーラ王国を宗主国とした支配下にあるのだが、軍事権、外交権は制限付きながら認められており、その代わり、要請があれば、兵役、労役などに資材、人員を提供するなどの助力を求められるという、実質的には上下関係がはっきりした同盟関係と云ったほうが良い。
だが、今回の要請はちょっとした博打でもある。
もし、藩王国の中に、謀反の側に付いたものがいた場合、あるいは、この機に乗じてクメーラの支配下を脱することを画策するものがいた場合、結果、敵対勢力増加を招くだけになってしまう可能性が生じるのだ。
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