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また、滅多にあることではないが、旅人が鉄甲騎でウーゴを訪れた場合、特別な許可でもなければ市街の乗り入れは禁止されており、砦で預かることになる。もし、現状のような状況でもなければ、希望すれば、有料で整備、修理を受ける事も可能である。これはウーゴに限らず、鉄甲騎を所持している街であれば、何処も同じである。
入城手続きを待つ人々が列を成す中、手続き待ちの馬車のひとつに、イバンの関心が向いた。
いや、それは馬車ではない。
「……乗用の自働車とは珍しいな」
それは、最近普及し始めた〈自働車〉と呼ばれる乗り物である。外見は、幌を畳んだ屋根無しの豪華な中型馬車といった感じであるが、後方に水容器と汽罐が見えるところから、焔石機関を動力にしている事は間違いない。
もともとは、西方の小さな町工場で、牛馬に依存していた大砲などの重量物を引く作業を効率よく行うために開発されたものが最初と云われているが、この時代に差し掛かる頃は、新しもの好きな富豪や一部の物好きな貴族(大抵の貴族は下賎な乗り物と忌み嫌う)が乗用として使用することも増え始めている。
「頭のターバンから見て、運転している老人はトバンの商人ですかね……街道を自働車で来るなんて、無謀すぎませんか?」
後席から覗き込んだヘルヘイが驚くのも無理はない。この時代の自働車は速度こそ馬車を凌駕していると云っても過言ではないが、出力、耐久共に不安が残り、更に云えば乗り心地もあまり快適とは云えない、発展途上の交通手段なのだ。
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