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ちなみに、この世界では、現在のところゴムタイヤは存在するものの、全てソリッドタイヤであり、空気入りゴムチューブタイヤは現在の所は発明されていない。ついでに言えば、履帯も発明されておらず、もし、それらのものが発明されれば、既存の乗り物や、場合によっては鉄甲騎の存在にも大きな影響を与えることになるやもしれない。もっともそれは、遠い先なので、現時点では物語に影響を及ぼさない。
イバンは、バイソールの首を動かすことなく、左操縦桿の短槓桿で撮像器のみを傾けて自働車を観察する。
「見たところ、どこかの工房都市で拵えた特注品だな……それよりも……」
イバンが気になったのは、自働車の後部席に座している、巌のような体躯を持つ男の存在だった。
ゆったりとした袖を持つ前袷の衣服に、虎模様の羽織、ボサ髪を後頭部にまとめて結い上げる独特の髪型……何より、肩に担いだ、組紐が幾重にも巻かれた鮫革の柄を持つ、黒漆塗りの鞘に収まる緩やかに反りかえる湾刀……
「ありゃ、〈サムライ〉だな……」
「サムライって……あの遙か東方の島国にいる武者のことですか!?」
「そうだ。私もよく知らんが、西方の騎士に似て異なる文化と価値観を持っているそうだ。巷の噂では、優れた〈気〉の技で鉄甲騎すら斬るとか……」
イバンの言葉に、ヘルヘイは肩をすくめる。
「そんな莫迦な……生身で鉄甲騎と渡り合える奴なんて……」
「いない訳じゃないさ。私も逢ったことはないが……」
そう言いながらも、イバンはそのサムライから目を離さない。
ふと、サムライの目がイバンと合った。
――気付いた?
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