兇賊と将軍

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兇賊と将軍

   砦から出発したイバンの隊は街道を進む。  鉄甲騎の歩行速度は遠目に見ると人程度だが、実際には歩幅の関係で、馬の常歩から速歩程度の速度はある。全力で走れば馬術に於ける襲歩にまで達するものの、機構の関係上と排熱処理の問題など故、短時間しか維持することが出来ない。  城門を出てから南に千二百メートルほど進み、西へと折れる地点を通過すると、大小様々な断崖に挟まれた、起伏に富んだ地形を見せる峡谷となる。ジグザグに入り組んだ街道は、草木に囲まれた岩山沿いに西へと伸び、しばらく進むと峡谷を抜け、西、および南北に分かれる分岐点へと続いている。  その分岐点には、ホドという宿場町があった。  今日は、その付近を狩り場とする狩人の目撃証言を元に、調査する予定である。  そんなイバン隊の動き、そして砦の動向を、岩山の頂から見ているものがいた。その者は、凝と蹲り、猛禽類のような目で、隊が街道を進む姿を確認すると、黒茶の翼を広げて南東のほうに飛んで行く。  それは、ひとりのツバサビトであった。その目同様、猛禽類の如き両翼を広げたその姿は、セレイのそれよりも大柄だった。翼人の男は、体格に見合わぬ華麗な飛翔で谷間を、岩肌を、樹林を抜け、やがて誰もが寄りつかぬ、森林の奧へと低空飛行を続ける。  その姿を、大木の枝から見つけた者がいた。ツバサビトも枝の人物に気付いたのか、その側まで滑空し、隣の木の枝に降りた。足爪で枝をしっかり掴み、それこそ鳥のように蹲る。 「……お頭さんと客人さんがお待ちだ」  男の言葉に無言で頷いたツバサビトは、再び飛翔し、さらに奧へと向かう。  やがてツバサビトは、岩山の影に消えた。
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