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そこは、巨岩を穿ち作られた石窟寺院だった。
いや、巨岩のように見える寺院跡といった方が正解であろうか……
かつては大勢の信者に崇められ、そして今はあらゆる者から忘れられた、荘厳かつ巨大な石造りの建造物は、苔や蔦の浸食を甘んじて受け入れ、ただ静かに朽ち果てるのを待っていた。
そして、その朽ちた拝殿にて、悪党どもの交わす密談を、長き年月を経て目も鼻も耳も摩耗した神仏の像は、見ることも聞くこともできなかった。
その朽ちた像に、悪党の一人が殊勝にも祈りを捧げていた。
「……何の神様さんか、今となっては存じませんが、哀れな悪党と敗戦の将にささやかな塒と逆襲の機会をお与え下さり、感謝の念に堪えません……」
薄暗い拝殿の前、辛うじて人型を留める像に、西方のリダーヤ式に両手を組み、大仰な仕草で祈りの言葉を捧げる痩せぎすの男は、やがて自分のしたことが可笑しかったのか、
「ぷぷっ……くっくく……ふひぃははははははははははは……!」
と、腹を抱え、への字に歪んだ大口を開けて爆笑する。
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