兇賊と将軍

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 歳は四十に届いているだろうか。枯れ枝のようではあるが筋肉はしっかりと付いており、細く四角い顔立ちにクッキリとした頬骨と鼻筋、この辺りでは珍しい銀髪を短くまとめ、何より特徴的な逆さ半月の白目に点のような青い瞳をぎらぎらと狂気に輝かせる色白の男こそ、ゼットス。  〈武装教賊団ゼットス一党〉の頭目である。  この男が何故、自身と同じ名を持つ兇賊一党の頭となったのか……それには当然、理由、事情はあるのだが、それは別の機会に語ろう。 「……悪党の頭と敗戦の将が傷を舐め合うなんざ、可笑しいったら、ありゃしねぇ……」  腹を抱えて笑うゼットスの言い回しが気に入らないのか、別の怒鳴り声が神殿に響く。 「吾輩は負けたわけではない!……何が敗戦の将であるか!?」  ゼットスの振り向いた先には、使い古された絨毯が敷かれ、ランプと茶器を乗せた、真鍮の座卓が置かれていた。その傍で、怒鳴り声の主である、歳の頃二十過ぎの若い軍人が、小柄だが肉付きの良い体を薄汚れた板金甲冑の内側に詰め込み、どっかりとふてぶてしく座椅子に胡座をかき、苛立ちを隠すつもりもなく体を揺する。  クメーラ王国に於ける、辺境伯の武装蜂起に呼応し、決起したものの、それがあっさり鎮圧されたと知るや自らの近習を引き連れて飛空船で逃走した挙げ句、墜落、そしてよりにもよって壊滅寸前の盗賊どもに身を寄せるなど、ひと月前には、それこそこの男、リチャルド・ドルトフ将軍閣下は考えもしていなかったことだ。     
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