靴が無い

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靴が無い

やられたと思った。  久しぶりに、高校の時の同級生のYから電話があり、私は懐かしさに浮かれていた。 そもそもYは、私とはさほど親しくはなかったが、社会人となり、ごく限られた行動範囲での人間関係以外からの、しかも旧知の人間からのコンタクトは嬉しいものだ。  「元気ぃ?久しぶりやね。」 懐かしい方言とともに、当時の朗らかなYの姿が目に浮かぶ。 最初はお互いの近況報告で、他の同級生の近況、担任の教師が退職したことやら、私の知らない情報ばかりで、ついつい話が弾んで長話になってしまった。 「せっかくやから、今度会わない?私、今度そっちに行く用事があるんよ。」 もちろん、断る理由は無い。  Yは、駅まで車で迎えに来た。車から颯爽と降りてきたYは、故郷に残って就職したとは思えないほど、垢抜けており洗練された女になっていた。逆に都会に出てきた私のほうが、よほども田舎臭くて、Yは彼氏でもできたのかもしれない。女二人でのドライブ。郊外の隠れ家的なレストランでランチを楽しみ、私達の会話はあれほど電話で話したにも関わらず尽きなかった。 「ちょっと付き合って欲しいところがあるんよ。」     
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