靴が無い

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Yは、その風貌にも似合わず、方言丸出しで私にそう切り出してきた。 「うん、いいよ。どこに行くん?」 私も思わず、懐かしい方言で答える。 「いいところ。」 そう言うと、Yは私に微笑んだ。  そこは、大きな会館のような施設だった。訝しげに見る私にYは、やっと本性を現したのだ。 「実はね、今日、ここで講演会があるんよ。すごく興味深い話が聞けると思うよ。私なんて、最初に先生の講演を聞いた時には、感動して泣いちゃったくらいだもの。」 私は会場に連れて行かれ、入り口で名前を書かされて、小さな小冊子を受け取ると、椅子に座った。 しばらくすると、壇上に、初老の男性が現れて、マイクに向かって話し始めた。  Yに騙されて連れてこられたことがショックで、話は何も耳に入ってこなかった。当の本人は私の隣でキラキラした瞳で、壇上の初老の男の話にうっとり聞き入っているのだ。これが洗脳ってやつなのか。一通り話が、終わると、会場に集まった人々が一斉に立ち上がり、ポクポクと何かを叩きながら、呪文のような経文のような意味不明の言葉を喚き始めた。  こんなの、付き合ってられない。私は、こっそりと、立ち上がって無心に何かを唱えている人々の間を縫って、出口へと向かった。 「どちらへ?」     
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