靴が無い

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私は意味がわからず、問い返した。 「あなたはここから帰れない。さあ、まだ尊いお話の途中ですよ。戻りましょう。」 そう言うと、男は私の手をつかんだ。 「ちょっと何をするんですか。私はただ、友人に連れられてきただけなんです。こういうの、興味ないんですよ。」 私は憤慨して、男を睨んだ。 「興味あろうが無かろうが、あなたは、もう、帰れない。」 そう男は言うと、薄く笑った。 いつの間にか、私の周りには、老若男女、たくさんの人が集まっていた。 ポクポクポクポク、我らはやがて、土となり水となり風となりて~ 呪文か経文だと思っていた音がやっと意味を持つ言葉として鼓膜をワンワンと震わせる。 頭がズキズキと痛み出した。やめて、やめて。私を、私を、家に帰して。お願い。  私はそこで、目が覚めた。冬にも関わらず、額に汗をかいていた。なんだ、夢か。ほっと胸を撫で下ろす。妙にリアルで嫌な夢だった。枕元の時計を見やると、まだ5時だった。もうこの時間では、眠ることはできない。仕方なく体を起こすと、私は、身支度をして、いつもの時間に会社に向かった。     
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