靴が無い

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 どうして夢にさほど親しくないYが出てきたのだろう。そもそもYは、私の携帯の番号など知るはずも無い。だから、Yから私にコンタクトをとるなどありえないのだ。私は、あるアドレスにメールした。唯一、高校からずっと付き合いのある、マナミへのメール。  私とマナミは、その夜、居酒屋で合流した。他愛ないおしゃべりのついでに、私は今朝見た悪夢のことをマナミに話した。 マナミは、しばらくそれを聞いて、私の顔をじっと見てこう言った。 「ねえ、Yって誰?」  そんなことあるはずがない。だってYは、あんなに朗らかで、クラスでも目立つ存在だったのだ。マナミが忘れてるだけなのだろうか。私は、別の友人にもメールで尋ねた。答えは、知らない、誰それ?  Y,Y,確か彼女は...。私の記憶が曖昧になっていく。 彼女が所属していた部活は?彼女はどこに住んでいただろうか?どこの中学校出身だっけ? 彼女の風貌もあやふやになってきた。  きっと、私の記憶が間違っているのだ。人間の記憶ほどあてにならないものはない。もう寝よう。 たかが夢の話だ。  ポクポクポクポク、我らはやがて、土となり水となり風となりて~。 ワンワンと鼓膜を震わせるのは、老若男女の合唱だ。頭の中をサラウンドして、脳みそがかき混ぜられるよう。 頭が痛い。またあの夢の続きか。夢ならさめて。  Yが私を見下ろして、クスクスと笑っている。誰も知らないと言った、Y。     
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