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その晩の月はこのうえなく美しかった。
天地万物の物が、私のものであるかのように金色の光が部屋一杯に差し込んでいた。
朱色布団に施された金銀の刺繍が輝いて、私の白い肌も男の優しい瞳も、全てが本当だった。
「京に行くなんて、嘘なのでしょう?」
「本当だよ」
「嘘が下手なのに、どうしてこんな事まで」
絡んだ赤い糸を月の明かりに照らしてクスリと笑うと男は真剣な顔で言った。
「夕月、嘘も突き通せば本当になるというだろ」
「違うわ」
男は首をかしげた。
「人を騙す嘘は本当にはなりません。本当になるんのは……自分を自衛、防衛する嘘だけでありんす」
「じゃあ、本当になるよ」
「おかしな人」
「夕月、おまえには嘘はついていない。ここから出すよ……きっと」
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