籠の鳥

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「これを」 「?」 風呂敷の中には私がここからでるのに十分な金と、綺麗な反物が山ほど入っていた。 「これは」 「約束をしたと」 「……」 あの人は、京からの帰りに病で倒れ今は屋敷で養生しているというのだ。 医者はそう悪くないというが彼の病は一向に回復せず、良し悪しを行ったり来たりとするばかりだそうだ。 先がそう長くはないと案じた彼は、この男に金と京の土産の反物を託したという事だった。 祝言をあげたというのは、デマカセで本当に京に出向いていたのだ。 「ここから出て、町で小さな団子屋でもやるくらいの金はあるはずだ。籠を出て昼間の空を見ろと、申しておった。夕月は夜空しか見上げないから、真昼にも月があるのを知らんのだろうと笑っておった」 なぜ、あの晩に信じてやれなかったのだろう。 なぜ、あの晩にもっと愛してやれなかったのだろう。 悔やんで悔やんで悔やんで 男が帰って行ったあと、2晩泣きとおした。 夜空しか知らない籠の鳥。 陽の光を浴びたら溶けて消えてしまうかも知れない籠の鳥。 私は 夜空に願いをかけた。 どうか、籠から出ても溶けないように……あの人の元へ飛んでいけるようにと。
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