籠の鳥

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それから満月が2回来た晩に私は小さな地図を頼りに歩いた。 立派な屋敷の戸を叩き、訳を話すと手伝いの初老の女は涙をハラハラと流し私を部屋に通してくれた。 「この所はずいぶん調子がいいんですよ。あなたさんが廓を出たと聞いてから」 「廓の女がこんな所へ参って申し訳ございません」 「いいえ。とんでもない……あなたさんのお話をなさるときの若さんのお顔を見てたら……あなたさんがどんな人なのかわかります……おいでくださってよかった。若さんのご病気もきっと良くなります」 初老の女は何度も頷いた。 「若さん。お客さんですよ」 「お客……誰も通すなと……夕月。なぜここへ」 縁側に座っていた男の驚いた顔を見て少し微笑むと横に並んだ。 「人を騙す嘘は本当にはなりません。本当になるのは……自分を自衛、防衛する嘘だけでありんす……聞きました。そしてこうして、おそばに参りました」 「……籠を出たのに、また籠に飛び込むのか」 「いいえ。ここは大門の外……どこにも籠はありません」 男はふっと笑った。 「月があるのは……夜空だけではないぞ」 「夜空にも真昼にも……月はありんす」 「泣くな夕月」 「もう、夕月はおりません。月子。本当の名でお呼びください」 夜空を見上げて男は微笑んだ。 「願えど叶わぬと思っていたが……月の中に神はおるのかも知れんな」 「ええ。この夜空に願いましょう……互いに嘘のいらぬようにと」 「ああ。そうしよう」 籠を出た鳥は、夜空に願った。 つがいの鳥を見つけて、止まり木で夜空を見上げて。
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