或る夜

3/15
前へ
/22ページ
次へ
マコの恋人の名は、勝利(かつとし)。 健全な少年漫画の主人公の様な名前だが、実質は、青年誌で連載される様なアウトロー小説の主人公の様な鬼畜ドSな男だ。 勝利はマコを抱いたまま、ホテルの駐車場を出て、繁華街を人目も憚らず闊歩した。 きわどいドレスを着崩したマコが人目を引くので、スーツの上着を彼女のカラダにかけてやった。 「……」 不貞腐れた表情のマコは、何か言いたげだったが、下唇を噛み締めて、勝利の胸に頬を寄せた。 勝利の白いシャツにほのかに、ファンデの色が移り、それを勝利は分かっていたが、特に嫌な顔をせず、無言を通した。 「……もう、別れたい」 「……」 不意に、随分経ってからマコがそう切り出した。 噛みしめていた唇を開き、言葉の瞬間涙を零した。 勝利はマコを無視する様にただ前を見つめてひたすら街を歩き続け、思い付いた様に呟く。 「今更? 俺に堪えられないってか?」 マコは俯いた。 「そうだよ。 好きなら何でも良いと思って、付き合い始めたあの日を私を殺したい位。……きっとね、貴方には一生分からないよ。 私のキモチ」 「喧嘩……、売ってんのか?」 冷静な声色で、とことん非情な言葉だとマコは思った。 自分は、容姿の良し悪し、体格、権力、経済力、でこの男を選んだ訳ではない。 愛したのは、出逢って強く惹かれたのが、要因だった。 だから、今までその人間性の破綻に向き合って都度辟易しながらも、愛想が付かない限り、愛し続けて来た。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加