12人が本棚に入れています
本棚に追加
Ⅰ
『クランベリーの砂糖漬け買ってくるから。』
それがお母さんが聞いた
お姉ちゃんの最後の声だった。
『今日は早く帰れるの?』
朝食のテーブルで、シンクの方を向いたまま言ったお母さんの背中に
「友達とカラオケ行く約束してるから遅い。」
と答えた。
昨年と同じやりとり。
『ケーキは食べる?』
それも昨年と同じだよね。
「いらない。」
お母さんは何も答えずに、シンクに向かっている。
その背中に
「いってきます。」
と告げて靴をはいた。
昨年のこと。
起きたらまた同じことが繰り返されるんだろうな。
今年の明日も。
ベッドに入るときそう思ったんだ。
*
『あーちゃん、あーちゃん。』
耳元で誰かが言った。誰かってお姉ちゃんの声そっくり。
スマホを見たら2時。
誰がなんのイタズラ? 夢?
『あーちゃんってば。』
首を捻って少し目を開けると、お姉ちゃん!
「なに?えっ?夢?」
『みたいなもん。』
三回忌は二年目にするから、昨日は普通にお坊さんに拝みに来てもらった。
お姉ちゃんが逝って3年経った。
怖いとか思わないけど、びっくりするよね。
「な、なに?」
最初のコメントを投稿しよう!