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『あーちゃんにだけ見えてる。あーちゃんにだけ聞こえてる。』
お姉ちゃんはやっぱり少し下を向いている。そして、一件のハイツの前で止まった。
『2階の一番端の部屋。』
そこにこれを渡す人がいるの?
ドアに小さな紙が貼ってある。
〈能勢〉さん?
よくわからないまま緊張する指先で、インターフォンを押す。少ししてボサボサの髪をした大学生くらいの男の人が出てきた。
ゴクリと唾を飲み込んでしまった。
お姉ちゃんは咄嗟に私の後ろに隠れた。隣にいてもこの人には見えないはずなのに。
『だれ?・・なに?』
彼は怪訝な顔で私を見る。そして私の制服を見た。
『一高?休みじゃないよね?』
私はポケットから小さな袋を出して、彼に差し出した。
「あ・・預かってきました。」
彼は不思議そうに袋を受け取ると、おもむろに封を開けた。中からキーホルダーみたいなのが出てきた。
しばらくそれを見つめて、私を見る。
『・・・あーちゃん?』
なんで?なんで私の名前?
「失礼します。」
ちょっと怖くなって、頭を下げて階段を降りる。
そのまま振り返らずに歩いた。
「お姉ちゃん、これでいいの?」
斜め後ろからついてきているお姉ちゃんが、頷いた気がする。
「だれ?」
『先輩。』
お姉ちゃんも本当なら、大学生になってた。
でも高校の制服のままだ。
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